君に贈る花束

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「まずは五つある卵のうち、三つを卵黄と卵白に分けて下さいねー。残り二つはそのまま使いまーす」  私の他にも数人の男性がいる。卵割りがこんなに難しいとは。 「あちゃあ。殻が入ってしまった」 「大丈夫ですよー。ゆっくり落ち着いていきましょう」  私はゆっくり殻を取り出した。卵黄卵白に分ける行程は、私のあまりの不器用さに見かねた男性店員が助太刀してくれた。 「はい、卵黄と全卵のボールを湯煎にかけながらグラニュー糖を入れて混ぜます! 人肌位まで温めましょう! 忙しい皆さんのために、ハンドミキサーを用意しました。順番にお使いください」  私は二番手。先に使っている男性は若く見える。これでもかと慎重に作業にあたっていた。 「はい、どうぞ」 「どうも。上手いですね、さっき卵割りも見たけど上手ですよね」  ハンドミキサーを回しながら声を掛けると、男性は嬉しそうに笑った。 「俺、母子家庭なもんでして。父が病気で亡くなってから、よく料理を手伝っていました」 「そうなんですか。じゃあ今日はお母さんに?」  男性は照れながら返事をした。 「はい。母はもちろん、母と一緒に家で待っている妻と子供たちに」 「そうでしたか。じゃあ美味しいケーキを作らないとなりませんね」 「はい!」  最近の若者は、という同世代は多い。そんなに歳が離れていないいのに、私も時たま思うところはある。しかし。 「見習うべきところも多いよな」  今ここにいる青年は、大事な人たちを思って頑張っているのだから。     
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