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「はーい。次は……」
男性の笑顔に雑じり気は一切なく、清々しく見えた。
「私も頑張らないとな」
初めてだが、ケーキを作ることは意外にも楽しいと知ることが出来たのも新鮮だった。
約一時間と四十分の行程を終えた頃には、参加した男性たちに満面の笑みが溢れた。
「素直な思いを」
ミモザの花束と四角い箱を抱え込み、店員の男性に見送られながら、私は家路を急いだ。
「ただいま。子供たちは?」
「お帰りなさい。先に寝てますよ。今日も元気で走り回っていたから。あら、どうしたの? 花束なんか持って」
「寝ているのか。じゃあ子供たちには明日だな。あ、これは。ちょっとな……」
鞄を渡しつつ、素直になるべきタイミングを図りかねていると、妻は花を見つめながら言った。
「あ、今日この花を近所のスーパーにある花屋で見掛けたわ! えっと、たしか……」
今だ。他に機はない。
「ミモザ、と言う花だ」
「あら、詳しいのね。いつから花に興味を?」
怪訝そうに、からかう様に笑う妻。私は、今日が世界でどういう日なのかを説明した。
「そうだったのね」
「この花束を君に」
妻は一瞬呆けた顔をして、その後満面の笑みで花束を受け取った。
まだ、言えていない言葉がある。
「ちょっと座ってくれないか?」
ダイニングテーブルの椅子に腰を掛け、真ん中に箱を置いた。
「開けて見てくれ」
「私に?」
問いかける妻に、私は頷いた。
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