酷暑の夏

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祖父は生来とても質素な人でしたから、特に興味を引くようなものもありませんでした。本棚には仕事に関連していた、電気関係の若干の専門書と、あと何冊かの歴史小説が並んでいるだけ。そして窓際に小さな事務机が一つ。その机の上にも、小さな置時計以外は何も置かれていませんでした。  その事務机にふと興味をひかれ、何が入っているのだろうと一番上の引き出しを開けてみました。引き出しの中も、質素で几帳面な祖父らしく、きちんと整理されていて、そもそもあまり物も入っていませんでした。ボールペンが二本、黒と赤が一本ずつ。鋏とスティックのりと、あと、真っ白いメモ用紙が一綴り。そしてそのメモ用紙の傍に何か妙な形をしたものが有りました。  大きさは大体1センチくらいで、形は不定形といいますか、歪んだ楕円のような、あるいは蝋燭の燃え残りかそうでなければ単なる土くれのようにも見えます。きちんと整理された机の中にあって、その歪んだ小さな物体は、いかにもイレギュラーな感じで、そこが私の関心を惹いたんです。     
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