酷暑の夏

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「みんな知ってると思うけど、おじいさんは戦後身一つで東京に出てきて、苦学しながらエンジニアとして身を立ててね。私ともこっちで知り合って、家庭を持って、この家も建てて……ずっとこっちで暮らしてきたけど、17歳までは広島で生まれ育ったの。 「昭和20年、広島に原爆が落ちた時、おじいさんは、動員で工場に行っていた。その工場が、たまたま市外にあったおかげで、被爆は免れた。でも、おじいさんの実家は広島市内の爆心地に近いところにあったの…… 「すぐに駆け付けたけど、実家のあったところには、もう、何にも残っていなかったって……家も勿論、家族も……両親も、たった一人の妹も、一緒に住んでたお祖母さんも、みんな全てが灰になっていたって…… 「家財も何もかも灰になって、鍋釜や自転車みたいな金属製品は溶けてドロドロになってた……そんな焼け跡をおじいさんは必死になって掘り起こしてね……とにかく何か形のあるものはないかと……家族の思い出になるものが残ってないか……涙ながらにみんなの名前を叫びながら、必死になって探したんだって…… 「そうしたら、焼け跡の灰の中に何か光るものが見つかって、拾い上げてみたら、それがこの一銭硬貨だったの。他の全ては燃え尽きて、金属はみんな溶けていたのに、そのたった一枚の硬貨だけが、ピカピカのきれいな状態で出て来たんだって。本当に奇跡的なことだって言ってた……     
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