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芳 1
夜になると賑やかになる場所がある。一般的にそういうところは女性がサービスして、男性がサービスを受ける場所だったりする。
芳(かおる)は、10帖ほどの部屋の窓近くに座って、外の賑わいを眺めていた。風はまだ冷たく、また、誰かに見つかるのも面倒なので、窓はほんの5センチほどしか開けていない。
外で客引きしている男性はなく、劇場とよばれる、芳が今滞在中の大きな建物の入り口付近では、ショーが始まるまでの間の客引きがわりの演奏が行われており、それを聴いている子供と連れてきた祖父母らしき人がいるくらいで、
『本日の席はすべて完売しました』
の看板の隣で、客のチケットの半券をもぎとっているスタッフが忙しなく案内したり、たまに看板を読んでいるにもかかわらず、
「満席なんですか?」
と訊いてくる客に対応している。
そんな様子をつぶさに観察していたので、少ししか開けていなかった窓をいつのまにか自分の頭でさらに広げて、肩まで乗り出しかけていたのだろう。
「そこから飛び降りても死ねないよ」
背後からかけてきた声に気づく。
「かおる」
自分と同じ音の名前を持つ少女がそこにいた。
といっても、もちろん自分の名前は別にあるが。
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