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踏み出す春
先月、母が買ってきた父の誕生日ケーキに付いていた保冷剤を冷凍庫から取り出し、今日手を拭きまくった愛用のハンドタオルで丁寧に包む。冷たくて指が痛い。なぜ母親という生き物は保冷剤を溜め込むんだろうと疑問に思うこともあったが、その収集癖に感謝。さすが築42年の受け継がれしボロ屋で長年主婦やってる節約家。
タオル越しの冷気を手のひらで確認している間、薄暗い食卓のイスにだらしなく腰掛けた隆之は、仏頂面でキッチンの隅をにらんでいた。そこには別段珍しい物はなく、母親が買い溜めしている安売りのパスタソースや高野豆腐、カレールーの箱が詰め込まれている年季の入った戸棚があるだけだ。不機嫌な友人のオーラに冷たい台所の床を足の指でぎゅっとつかむ。擦りガラスの小窓から静かな夕日が差し込んでいた。
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