4人が本棚に入れています
本棚に追加
合格発表が終わっていて本当に良かった。喧嘩を理由に不合格になったかもしれない。そう思うと彼の軽率な行動に腹が立った。力自慢のお調子者タイプでもなく、不良を気取ってる訳でもない普通の高校生だった奴が、突然目の前で同級生をぶっ飛ばすなんて。衝撃的なシーンが鮮明でまだ心臓は落ち着かない。保冷剤を押しつけ、コーヒーを淹れるために戸棚に向かう。こんな寒くて心がざわつく日はコーヒーに限る。ティーバッグの紅茶なんて柔なものじゃ収まらない。小学生の頃は少し背伸びして開けていた戸棚の引き戸は、劣化してギシギシ音を立てるし、どこかに引っかかってまうと押したり引いたりを力任せに行わなくてはならなかった。2度戸を叩いてからようやくインスタントコーヒーを取り出す。スプーン大盛り2杯のカップとすり切り1杯と半分それに角砂糖を3個放り込んだカップを作る。
「最後まで、お前が言い返さないからだろうが」
シューシュー電気ケトルが鳴く音に紛れて吐き捨てられた隆之の苛立ち。
去年の春、つまり僕らが高校3年生になってから初めて同じクラスになった奴がイジリが大好きっていう売れないお笑い芸人みたいな奴で、良く言えばクラスの盛り上げ役だったのだが、僕の反応が薄い事をつまらない、といつも強めのツッコミを入れてきていた。背中を叩く勢いは他の同級生よりも強かったし、発言は僕を下げて笑いを取ろうという腹づもりが見え見えだった。母に似た丸い目とどうやったって日焼けしない白い肌は大層大人しく見えて格好の獲物だっただろう。ただ、僕自身はそれを辛いとかイジメだとか思ったことは一度もない。人見知りで引っ込み思案な自分の役割に納得していたし、残り一年、周囲と仲良く穏便に過ごしたい気持ちの方が強かった。そいつも仲間はずれやいかにもイジメ、というような事はしてこなかったし、盛り上げたいだけだという事は分かっていた。もしいじめに類する事があれば僕も黙ってはいない。自分の身は自分で守る。何と言え
最初のコメントを投稿しよう!