踏み出す春

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ばいいか、僕が大人しくされるがままになっていたのは『オトナ対応』をしていたつもりだった。子供っぽい同級生の、子供っぽい遊びに付き合ってあげている、そんな気分だったのだ。 だから、隆之が澄んだ晴天の本日、卒業式の後、少しだけ蕾がピンク色になった校門横の桜の木の下で、僕の肩を卒業証書が入った筒で小突いた馬鹿なムードメーカーをグーでパンチした時、連れ立って歩いていたクラスメイトも隆之に挨拶しに来ていた陸上部の後輩達も通りがかった他の学生らも、そして僕も固まって動けなかった。数秒のタイムラグの後、殴られた被害者は拳を振り上げ隆之を殴り返した。お互い学ランにつかみかかってもみ合いになったが、僕らは牧歌的な田舎の高校で青春を謳歌した健全な若人で喧嘩なんかした事がなかったから、つかみ合ったままそれ以上酷い事には進展せずそれは相撲の様相を呈した。大勢で一生懸命なだめて2人を引き離すとリーダー格は何なんだよ!とか、俺がお前に何したって言うんだ!とか、興奮した様子で喚いた。隆之は鋭く睨みつけたまま何も言わなかった。みんなは顔を見合わせ、初めて目の当たりにしたナマの喧嘩に混乱状 態だった。 「お前でも感情が爆発するんだな。長年友達やってるけど、珍しいもん見たわ」     
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