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唯一、お店以外で彼を見たのは小学生の時によく遊んだ公園。
迷わず走れば、やっぱりそこに彼は居た。しゃがみ込んで、小さな雪だるまを見ていた。
「あのっ!!」
公園の外から大きな声で呼びかける。彼は驚きもせず、私の姿を捉えた。
走り続けて乱れた呼吸を整えながら彼との物理的な距離を縮めると、彼は立ち上がってその場で待っていてくれた。
優しい笑みを浮かべる彼の目の前に立って、赤いニット帽、おもちゃの赤いネックレスを見て、私は確信を得た。
「間違っていたらごめんなさい。でも、聞いてほしいことがあるんです」
嫌われたっていい。
関係が壊れたっていい。
私は、彼のことが知りたい。
「何でも聞いて差し上げます」
優しい笑顔と優しい声に心を落ち着かせて、私は口を開く。
「そのおもちゃの赤いネックレス、二十年前の大人気子供向けアニメのグッズですよね。抽選で三十名限定、当たった人の名前も書いてくれるっていう。私、当たったんですけど、父が間違えて記入した苗字が書かれたものが送られてきたんですよね。貴方の着けているネックレスに、私と同じ苗字が書かれてるんです。珍しい苗字だから、お店で見たときはすごい偶然だなって。でも、もう一つ、私のと同じところがあるんです」
ゆっくりと、丁寧に、言葉を紡ぐ。
「苗字の端に書かれた星のマークです。兄と喧嘩したときに書かれたもので、そこまで同じで本当にすごい偶然ですよね」
彼は困った顔にも、焦った顔にもならない。
いつもの顔でただ静かに私を見つめて、私の声を聞いている。
「あと、その赤いニット帽のブランドタグみたいなものは私の母の名前なんです。母が父にプレゼントしたもので、父から私が譲り受けたものなんです。母の手作りで。この世で唯一無二のもので、私の宝物でした」
私が思春期の頃に気持ち悪がったお父さんとお母さんのラブラブな関係が、今、私の役に立った。
それと、もう一つ。
写真好きの二人が撮ってくれた写真。
あの写真も私の役に立った。
私の消えていた記憶を呼び戻してくれたのだ。
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