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「だ、大丈夫ですか?」  今度は私の顔を覗き込む彼の顔がゆがむ。  あれ、もしかしてまた泣いてる? 「大丈夫です。すみません、目に小さなごみが入ってしまっただけなので」  ゆがんだ視界でも分かる彼の慌てふためく姿に、どうにか安心してもらおうと出来るだけいつもの声で言葉を伝える。  それでも、涙はこぼれ続けて説得力がない。彼は慌てふためく一方で、ぐちゃぐちゃな感情と小さな子供のように止まらない涙を余計に感じて苦しい。  ただでさ仕事中でお客様の前なのに、どうしてちゃんとできないのだろう。  もう、自分が嫌になる。 「すみません」  謝るべきなのは私。  そう言葉にしようと口を開けば、彼は冷たいハンカチを私に渡して、店から出て行った。  冷たいハンカチに涙をしみ込ませれば、熱と一緒に涙もいなくなった。  彼の前で泣き止むことが出来たらよかったのに。  私は店員、彼はお客様。  最悪だ。お客様に迷惑をかけてしまった。明日、来てくれたらちゃんと謝ろう。  彼は冬の間はこのお店に来てくれる。今まではそうだった。 「明日も来てくれるといいけど」  合わせる顔がない。だけど、ちゃんと謝りたいから。  彼のハンカチをポケットに仕舞うと、店の中に閉店時間を告げる音楽が鳴り響いた。  私は簡単な片づけをして、店を後にした。
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