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「次の日、柊鞠、風邪ひいちゃって。なかなか治らなくてね。やっと治って雪だるまに会いに行ったら、もう溶けてなくなっちゃってたの」 「……」 「柊鞠、いっぱい泣いてね。充分すぎるくらい泣いても、泣き止んでくれなくて。ご飯も食べてくれなくて、大変だったの」  話を一通り聞いても、私は何も思い出せない。そんなことがあったんだ、くらいの。  それでもなぜか、不思議なくらいにその後のことが気になった。 「その後はどうやって泣き止んだの?食欲とかも戻ったんでしょ?」 「何て言えばいいのかしら」  二人は顔を見合わせて難しい顔をした。そんなに悩むようなことを質問したつもりはなかった。ただ気になったことを聞いただけ。 「泣き疲れて眠った次の日、何事もなかったかのようにご飯を食べたのよ」 「え?」 「母さんは嘘ついてない。あぁ、そうだ。それくらいから雪遊びもしなくなったはずだ」  お母さんがうんうんと真剣な顔でうなずいているのを見て、二人が嘘をついているわけではないことが分かる。  だけど、それならどうして私自身が覚えていないのだろう。五歳くらいの記憶は確かにあやふやだ。けど、二人が覚えている出来事なら自分自身が一番記憶に残っているはずだ。  雪遊びをしなくなった原因なら、なおさら覚えているに違いないのに。  昨日の写真に写っている雪だるまが、二人の言っている雪だるまなら何かを思い出せるかもしれない。私は急いでコートに入れた写真を部屋まで取りに戻り、二人に見せた。 「これ?」 「そうそう、これよ。やだぁ、私たちずいぶん若いわぁ」  二人の会話はあっという間に自分たちの話に変わり、私は一人でその雪だるまをじっと見つめる。  石でできた目と鼻、細くて小さな木を上手に合わせてできた口、雑に頭の上に乗せられた赤いニット帽、人間で例えるなら首元におもちゃの赤いネックレス。  五歳にしては綺麗にできた大きな雪だるまだった。  それにしても、この帽子とネックレス、どこかで見た覚えがある。  静かに記憶を辿れば、よく見知った彼の顔が浮かんだ。  ゾワリと、鳥肌が立った。  私は写真とついでに台所に持ってきていたコートを手に取り、走った。  玄関から出るところで後ろから聞こえてきたお父さんの声に答えることもなく、私はひたすら走った。
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