第1章 夜明けの兆し

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1. その出会いはまるで、長い夜が明けて、朝が来るような、そんな出会いだった。 気が付けば、高一はあっという間に過ぎ、高二になった。時の流れが速くなった、そんな風に思うと、年をとった感がある。春といえば、出会いと別れの季節だが、高二となると、特に出会いもなく、学校が始まってから一週間経つが、特段友人が増えたわけでもない。まあ、そのような事に消極的だから仕方が無いのだろう。そんなことを友人に話すと、自虐趣味があったんだなという返答だけだった。 授業が終わって、特段勉強することもなく暇だと思い、普段は通らない通りを歩いていると、昔からあるような感じの喫茶店に辿り着いた。喫茶店の看板には、「成瀬珈琲店」と書かれていた。少し気になったので、僕は寄ってみることにした。 カランというベルを鳴らし、中に入ると、こじんまりとした僕好みの内装だった。僕は入り口に近めのカウンター席に座ると、店員の人に珈琲を頼んだ。店員の人は、僕とそんなに年が変わらない人のようだった。 「お待たせしましたー。その制服、神田高等学校の制服じゃない?」 「そうですけど……。」 「やっぱりー、私そこの卒業生なんだ。君、名前は?あまりお客さんいなくて暇だから、話し相手になってくれない?」 そう言われて周りを見ると、確かにいる人は少なかったし、パソコンで仕事をしている人や本を読んでいる人がいるくらいで、個々に過ごしているようだった。 「僕は、清水春斗といいます。話し相手って、何話すんです?」 「じゃあ、私も軽く自己紹介。私の名前は、久保紬。ここでバイトしている美大生なんだ。今は、普段いる二人が外に出てて暇しているところだったのだよ。ご覧の通り、お客が少ないからね。だけど、ここ落ち着くでしょ?」 「はい、落ち着きます。あまり人の多いところとか得意じゃないので……。美大って、どういう事勉強するんですか?」 何を話せば良いか分からなかったから適当に聞いたのだが、久保さんは嬉しそうに色んな話をし始めた。
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