第1章 夜明けの兆し

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久保さんは嬉しそうに、学年で一番になった作品も見せてくれて、僕はそういうものに疎いが、その動画はよく出来ていた。これは愚痴話なのか、女子大だから、男子と話せないのが悲しいと言っていた。もはや、男子と話すのが夢だとも。僕は何を言って良いのか分からず、黙って聞いていた。 そんな風に過ごしていると、カランと鳴って、二人の女性が入ってきた。一人は気の強そうな女性で、もう一人は大人しそうな女性だった。久保さんが紹介してくれて、気の強そうな方が成瀬千夏さんで、大人しそうな方が如月心さんというらしい。成瀬さんはこの店のオーナーの娘で、如月さんはバイトとして働いている。 「おかえりなさい、心ちゃんと千夏ちゃん。二人が遅いから、男子高校生に話し相手になってもらっていたよ。」 「ごめん、ごめん。心が優柔不断で、材料選びに時間がかかっちゃって。」 「だって、珈琲選びとかスイーツの材料って重要でしょ?」 三人は自由に話し始め、僕は黙って本を読むことにした。少し時間が経つと静かになり、気が付くと隣に心と言われていた人が座っていた。僕が如月さんの方を見ると、如月さんは軽く微笑んだ。近くで見るとさらに可愛く見えるので、僕は少しだけどぎまぎした。 「その小説面白い?」 「面白いですよ。」 「ねえ、君は何か悩み事とかあったりしない?私は、悩み相談室みたいなのやってるんだけど、今日は運良く人がいないから、話聞くよ。もちろん、時間があればだけどね。」 「特段、人に話すような話はありませんよ。」 「そっか。まあ、会った初日に話すのも難しいもんね。気が向いたらいつでも来て。」 僕は不思議な人だと思った。どこか、人の考えを読めるような、そんな雰囲気がある人だと思ったのである。それが何故かは分からないが……。 僕はその後特段何も話さず、会計をして店を出ていった。
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