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2針目…他人事 卵
いつの間にか両掌に、卵を一つ抱いていた。
周りを見ると、皆も僕と同じように、様々な色の卵を各自好きな形で持ち歩いている。
沢山の人が道を行き来する中、ヒビの入った卵を手に言い争う人や、一方的に卵を割られておろおろしている人もいた。
泥水のような濁った液が噴き出したり、透明な水が流れ出したり──。
割れた卵が見せる反応は様々で、僕は醜いなあとか綺麗だなあとか、そんな事を思いつつ遠巻きに眺めていた。
その時、割れた卵を見ようと集っていく野次馬に腕をぶつけられて、僕の掌から卵がころりと転がり落ちた。
拾おうと腰を屈めた途端、近くにいた誰かが僕の手ごと卵を“ぱしん”と踏み付けた。
──目が覚めた所でふと顔を上げると、窓外の景色が丁度動き出す所だった。
満席の車内の通路に腰を曲げて立っている老人客を見つけて、僕は何となく席を譲った。
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