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「ねぇ、ユキヨ!私とも番号交換して!」
ひと気の少ない駐輪場で、元気よくヒノルに呼ばれた。ヒノルはすでにスマホを持っていた。手帳型のスマホカバーにはボールペンが挟んである。
「スマホって、ボールペンで文字を書き込める機能がついてるの?」
私の素直な質問に、ヒノルは小鳥が鳴くように笑った。
ヒノルは元気で声が高い。小学生の時の印象はそれくらいしか無かった。
「ちがうよぉ、学校に持って来てるのバレたら没収されちゃうじゃん? ほら、こーやってペン挟んどけば、ぱっと見は本当の手帳みたいでしょ?」
なるほど、私は少し関心して言った。
「いつも持ってきてるんだ。スマホ」
ヒノルはハッとして口元を手で塞ぐ。
「今のは内緒ね!お喋りし過ぎる癖なおさないと…。天網恢恢疎にして漏らさず。いつかはバレるもんかぁ」
ヒノルは口調がおっとりしてるだけで、喋りが遅いわけではないみたいだ。セリフ量が多い。よく舌が回るもんだ。
「さっきの、カイカイ何とかって何?呪文?」
「テンモウカイカイソ。お天道様は悪い事は見逃さないんだってさぁ」
「へ~。ヒノルちゃんって物知りなんだね」
「言葉が好きなだけだよ。テンモウカイカイソも言ってみたかっただけ」
そう言って、ヒノルは唇に右手の人差し指を当てた。
あざと可愛い感じになったヒノルに、私は自分のケータイを差し出した。
「私、まだ使い方よくわかんないから。ヒノルちゃんが番号とか登録してよ」
ヒノルはピュンっと笑った。引き笑いの癖があるみたい、だから小鳥みたいな声に聞こえる。
ピユン。似たような音をお母さんのスマホから聞いたことがある。
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