小鳥のなきごえ

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あの日から、私はヒノルと仲良くなった。 映画に行ったりカラオケに行った。ヒノルはあまり運動が得意ではなかったけど、バスケやボーリングも一緒に楽しんでくれた。 ヒノルは本当にお喋りな子だった。あまり話をしない私とはバランスが取れてたと思う。私はヒノルのお喋りは好きだった。話の中に私の知らないことが混ぜられていたから。 『情けは人の為ならず』は、人にかけた情けは自分に返ってくるものだから、人の為じゃなくて自分の為だ、という意味だった。 『真の友は共に孤独である』は、ピエール・ボナールという画家の言葉らしい。意味はよく分からなかった。 メールでのやり取りも楽しかった。メールに無頓着な私だけど、ヒノルのメールは言葉遊びがあって飽きなかった。 中学2年のある日の晩。その日あった授業の復習が終わって、ベッドに寝転がりケータイを開いた。必ず1通はメールが入っている。寝る前の1時間ほどはヒノルとやり取りをした。言葉をよく知るヒノルのメールは読書をしている感覚になる。 この時に『回文』という言葉を知った、前から読んでも後ろから読んでも同じになる言葉。私のお気に入りは、『()(なか)(かお)かお(かね)かなのよ』だ。 回文にハマった私は、ヒノルに一つ要求をした。 『ヒノルのオリジナル回文作ってよ。私の名前で。』 『え~!『ユキヨ』かぁ…。難しいなぁ。ちょっと待ってね』 私は台所に行ってお茶を飲んだ。トイレに寄ってから部屋に戻る。その(かん)は約10分。ヒノルからメールが届いていた。 『()雪誉(ゆきよ) 小粋(こいき)(おも)いよ 今宵(こよい)もお()()()(ゆめ)よ』 「わぁ…すごい」と、思わず呟いた。なんだか古典的でお洒落だ。私は勉強が出来ても、こう言った粋な事に頭が回らない。改めてヒノルが好きになった。 『すごい!すごいよ!ヒノル! そーいえば、ヒノルの笑い声、小鳥の鳴き声みたいだよね。夢の世界に行ってきます。また明日』
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