小鳥のなきごえ

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参道の長い列に並ぶ。拝殿に辿り着くまで色んな話をして過ごした。 「ユキヨのコート、ブランドだよね? カッコいいなぁ~」 「うん、お母さんのお古だけどね。気に入ってる」 「ユキヨは美人さんだからなぁ。なんでも似合って羨ましい!高校に入ってもモテモテだろうね」 私は少し照れ臭くなり黙ってしまう。 賽銭箱が目の前に現れた。財布から5円玉を取り出す。お賽銭を入れようとした時、ふと手を止めた。私は参拝の作法を知らなかった。受験前なので、正しい手順でお参りしたい。 「ユキヨ。『二拝二拍手一拝(にはいにはくしゅいちはい)』だよ。 お賽銭もね、数字の語呂合わせで色々あるんだって。 5円は『ご縁ありますように』、29円だと『福が来ますように』なんだってさ」 「へ~、流石だね。ヒノルとお参りに来てよかったよ」 ヒノルの真似をして無事に正しいお参りが出来た。 ふと、ヒノルと自分を比べてしまった。受験前の窮屈さもあり、何だか()(たま)れない。自分の面白味の無さに悲しくなった。 「高校に入って沢山の事を学んだら、私もヒノルみたいになれるかな…」 おみくじを結びながら、私は思わず弱音を漏らしてしまった。心に留めてた気持ち。らしくない自分の言葉に、私はハッとなった。ヒノルを見ると目をまん丸にしていた。 「え~!ユキヨにそんなこと言われたら、立場ないよぉ! この、文武両道め!冷淡無情、才色兼備ぃ、このこの〜」 ヒノルは両手の指をクチバシのように結んで、私の身体を突きだした。気持ちも横腹もくすぐったくなって思わず笑ってしまう。 「ふふ、なんか、悪口混ざってない?」 「あ、バレた」 ヒノルはピュンと笑い声をあげてから、花が萎むように話をやめた。その時、初めて、ヒノルには似合わない憂いが篭った笑みを見せた。そして、雪が溶けるような声で囁いた。 「ずっと友達でいようね。ユキヨ」
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