昔日の楽譜

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興味と期待、そして僕らの、初めて披露する緊張が教室に充満していった。 それは急な話だった。だが僕たち3人が高校生活の合間にバンドを組んで音楽活動をしているのは周知の事実だったため、オファーが来るのを――半ば妄想に近い形で――予想していなかったといえば嘘になる。卒業式の最後のホームルームに一曲披露してはどうかと言われた時は、僕なんかが最後を飾ってしまっていいのだろうかとつい卑屈になったが、ケッタとマホが心から嬉しそうに快諾するのを見たらそんな悩みは気にならなくなった。 かくて僕らは受験勉強も抱えながらも曲の練習にあたり、各々アレンジを加えつつ削るように完成形を見出した。最後の練習、誰もミスをすることなく奏できったときは3人とも満面の笑みでハイタッチを交わしたのを覚えている。間違いなく僕の青春はここにあった。 まだ寒さの残る体育館の中、早々に舟を漕ぐ隣人を横目に卒業式は滞りなく終わった。そして最後のホームルームへと駒を進める。僕たちの初めての人前での演奏の時間だ。 ケッタがその練習をしてきた卒業ソングの名を言ったのを合図に教室は静まり、その刹那の静寂にマホの力強いピアノが鋭利に切り込んだ。そして僕のアコースティックギターが彼女を追いかける。僕の緊張なんて指は知らないようで、まるで意識せずとも歩くことができるように弦は滑らかに鳴った。マホのピアノと僕のアコギが空気を鷲掴みにし教室の支配権を得た。 さぁ場は整えたぞ。マイクはなくともケッタの透き通った歌声は人を魅了できる。見ずともケッタがゆっくりと息を吸い込むのがわかった。そして完璧なタイミングで、僕らの旋律に透明な骨が通った。 あぁ最高だ。何百回と想像したレールの上を走れている。この高校で共に歩んだクラスメイトたちが僕たちを見る目が変わった。それがとても心地よくて、下手くそながらバンドを組んで良かったと思えた瞬間だった。 僕らの違った音が一つになる。違った音たちが、その境界を明確にしつつも一本の張ったピアノ線のように集う。 そして曲は最終パートに入り――
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