リップレス×ミッシングリング 後半

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   7  シャワーを浴び直し、化粧をしたゆり子は、散らかりっぱなしの部屋の真ん中で、掌の上の2つの指輪を見ていた。  出かける時間まで、あと5分ほどだ。 「うん」  立ち上がり、小さな抽斗の奥から指輪のケースを取り出す。  今の恋人の馳川に貰った指輪をケースにしまい、ハンドバッグに入れる。    そして、元彼の春山に貰った指輪を右手の薬指に嵌めた。  その時、スマートホンがJPOPを奏でながら震えて、メールの着信を知らせた。内容を確認したゆり子は、手早く返事を書いた。  ハンドバッグを持ち、パンプスを履いて外に出る。  雨は止み、雲の間から秋の空が顔をのぞかせていた。適度に湿った空気がひんやりと頬に気持ちがいい。  最初の一歩がいつもより大きくて、長いコートの裾が翻った。
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