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その3日前、20時。ゆり子は永田町にあるシティホテルの最上階のバーで、両葉草ふうを待っていた。ふうとは学生時代からの友人で、卒業して5年経った今でも定期的に会う。
土曜日のバーはさすがに混み合っていて、暗がりで客達が交わす言葉がゆったりしたジャズと混じり合い、大人のお酒の雰囲気を醸し出している。
そのざわめきが一瞬止んだ。
静寂を裂いて鋭い靴音がホールに響く。ゆり子には、客達の視線が靴音に合わせて移動していることが手に取るように分かった。
ふうが来たのだ。
「おっす、瀬島ゆり子。元気だった?」
振り返ったゆり子の前で、黒髪の和風美人が微笑んでいた。
170cmの長身に容赦のないハイヒール。体のラインがはっきり出るワンピースに短めのジャケットを羽織り、小さいハンドバッグをぶらぶらと持っている。シャンゼリゼのフランス人モデルという感じだ。とても日本語が通じるとは思えない。
「久しぶり」
「なに、しけた面して。なにかあったの? ふう姉さんに話してみな」と、カウンターチェアに腰掛けながら、ふうは陽気に言った。
後ろを振り返ると、男性ばかりか女性も、店中が注目している。
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