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学生時代は、ふうと2人でクラブやバーに遊びに行っては、ちやほやしてくる男たちをはべらせていい気になっていたものだ。
「マスター、ジントニックね」
ふうは周囲の視線などお構いなしに1杯目を注文した。
店内にざわめきが戻る。
近況報告を交わした後、ゆり子は今日の出来事を話し出した。
「馳川さんから貰った指輪を失くしちゃったのよ」
「ふうん?」
「デートに出かける直前に気が付いてね、探す時間がなかったんだ」
「で、なによ。怒られたとか?」
「うん……。ホテル行って、すぐ解散」
ふうの右眉がぴくりと動いた。
「ゆり子に不倫は似合わないと思うけど」
「指輪って、どんなところで失くすと思う? デートの前の日にわたし、会社帰りにデパートに行ってトイレに寄ったから、行ってみたけど駄目だったの」
「外したの覚えてないの」
「わたし、ぼーっとしながら指輪を抜いたり入れたりする癖があるの。昔からよく失くすのよ。ジャケットとかパンツのポケットも駄目。バッグの底もさらったし。あ、もしかしたら会社かなあ。抽斗に入れたかな」
「不倫相手、上司でしょ。経理部長?」
「経理課長」
「その課長はいつも席の近くにいるんでしょ。会社で失くしてたら、あっちが気付くんじゃない?」
「うーん、あんまわたしのこと見てないし」
「不倫なんて、やめたら」
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