リップレス×ミッシングリング 前半

4/7
前へ
/14ページ
次へ
 学生時代は、ふうと2人でクラブやバーに遊びに行っては、ちやほやしてくる男たちをはべらせていい気になっていたものだ。 「マスター、ジントニックね」  ふうは周囲の視線などお構いなしに1杯目を注文した。  店内にざわめきが戻る。  近況報告を交わした後、ゆり子は今日の出来事を話し出した。 「馳川さんから貰った指輪を失くしちゃったのよ」 「ふうん?」 「デートに出かける直前に気が付いてね、探す時間がなかったんだ」 「で、なによ。怒られたとか?」 「うん……。ホテル行って、すぐ解散」  ふうの右眉がぴくりと動いた。 「ゆり子に不倫は似合わないと思うけど」 「指輪って、どんなところで失くすと思う? デートの前の日にわたし、会社帰りにデパートに行ってトイレに寄ったから、行ってみたけど駄目だったの」 「外したの覚えてないの」 「わたし、ぼーっとしながら指輪を抜いたり入れたりする癖があるの。昔からよく失くすのよ。ジャケットとかパンツのポケットも駄目。バッグの底もさらったし。あ、もしかしたら会社かなあ。抽斗に入れたかな」 「不倫相手、上司でしょ。経理部長?」 「経理課長」 「その課長はいつも席の近くにいるんでしょ。会社で失くしてたら、あっちが気付くんじゃない?」 「うーん、あんまわたしのこと見てないし」 「不倫なんて、やめたら」     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加