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「……また言う。いいよね、ふうには深夜さんがいて」
「マスター、ドライマティーニ下さい」
ふうはマスターを呼ぶために上げた手をそのまま顎に当てて、ゆり子の顔をじっと見た。
「A大ミスコンの準ミスさん――あなたは不倫なんてする必要ありません。もっといい男が世の中にはたくさんいます」
ゆり子は肩を落として溜息をついた。
「馳川さんはいい男です。完璧です。それと、あなたが言うと嫌味ですよ、ミスA大さん」
ふうは、ふんと鼻を鳴らした。
「奥さんも子供もいるのに、若い女と浮気する男がいい男なわけないだろ」
「責任感があるんだよ。奥さんとはもうずっと何もないんだし」
「それは本当ですか?」
ゆり子はむすっとして、ふうの顔から視線を外した。
「ドライマティーニです」
マスターがふうの前にショートカクテルグラスを差し出す。ふうはオリーブの刺さったピックをつまんで、もそもそと食べた。
「あたしを叱ってくれるんだよ。成長させてくれるの。社会経験の厚みが全然ちがって……」
ふうはしばらくの間、ゆり子の話を頷きながら聞いていたが、
「春山くんね、結婚して子供がいるんだって」
ふと、そんなことを言い出した。
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