リップレス×ミッシングリング 前半

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「……また言う。いいよね、ふうには深夜さんがいて」 「マスター、ドライマティーニ下さい」  ふうはマスターを呼ぶために上げた手をそのまま顎に当てて、ゆり子の顔をじっと見た。 「A大ミスコンの準ミスさん――あなたは不倫なんてする必要ありません。もっといい男が世の中にはたくさんいます」  ゆり子は肩を落として溜息をついた。 「馳川さんはいい男です。完璧です。それと、あなたが言うと嫌味ですよ、ミスA大さん」  ふうは、ふんと鼻を鳴らした。 「奥さんも子供もいるのに、若い女と浮気する男がいい男なわけないだろ」 「責任感があるんだよ。奥さんとはもうずっと何もないんだし」 「それは本当ですか?」  ゆり子はむすっとして、ふうの顔から視線を外した。 「ドライマティーニです」  マスターがふうの前にショートカクテルグラスを差し出す。ふうはオリーブの刺さったピックをつまんで、もそもそと食べた。 「あたしを叱ってくれるんだよ。成長させてくれるの。社会経験の厚みが全然ちがって……」  ふうはしばらくの間、ゆり子の話を頷きながら聞いていたが、 「春山くんね、結婚して子供がいるんだって」  ふと、そんなことを言い出した。     
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