リップレス×ミッシングリング 前半

6/7
前へ
/14ページ
次へ
「……なにが言いたいの。いいじゃない、幸せになってくれてあたしも嬉しいよ」 「なんで別れたの」 「前にも言ったでしょ」 「唇、とんがってるよ」 「うるさいな、ふうがこんな話するからじゃん」 「春山くんの話はいらいらするってこと?」 「つまらなかったのよ。優柔不断で、ぼーっとして、なにもかもあたしがやってやんなきゃいけなかったんだから」 「あの頃のゆり子はよく笑ってたけどな。最近は唇をとんがらせてばっかじゃない」 「あたしは成長したいの」 「成長ねえ」 「会社で生き残ってくのだって大変なんだよ。不景気だし、いつでも勉強して自己研鑽しないと。そりゃ、探偵とかマッサージ嬢ってのはもっと大変かもしれないけど」 「まあ、働くってのはなんにせよ大変だね」 「そうそう」 「でもさ、奥さんや子供はどうなの」  ふうは真剣な顔でゆり子の目をのぞき込んだ。 「これはさ、あんたとあたしの仲だから言うんだよ」 「……うん」 「あんた、奥さんと子供を不幸にしてるよね」 「それは……そんなこと……」 「そんなこと?」 「だって、馳川さんを不幸にしてるのは奥さんと子供で、だからあたしは、あたしだって我慢してるんだから」  ゆり子は膝の上で拳をぎゅっと握った。 「あたしは馳川さんのことを好きなままでお墓に入るんだから」     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加