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「……なにが言いたいの。いいじゃない、幸せになってくれてあたしも嬉しいよ」
「なんで別れたの」
「前にも言ったでしょ」
「唇、とんがってるよ」
「うるさいな、ふうがこんな話するからじゃん」
「春山くんの話はいらいらするってこと?」
「つまらなかったのよ。優柔不断で、ぼーっとして、なにもかもあたしがやってやんなきゃいけなかったんだから」
「あの頃のゆり子はよく笑ってたけどな。最近は唇をとんがらせてばっかじゃない」
「あたしは成長したいの」
「成長ねえ」
「会社で生き残ってくのだって大変なんだよ。不景気だし、いつでも勉強して自己研鑽しないと。そりゃ、探偵とかマッサージ嬢ってのはもっと大変かもしれないけど」
「まあ、働くってのはなんにせよ大変だね」
「そうそう」
「でもさ、奥さんや子供はどうなの」
ふうは真剣な顔でゆり子の目をのぞき込んだ。
「これはさ、あんたとあたしの仲だから言うんだよ」
「……うん」
「あんた、奥さんと子供を不幸にしてるよね」
「それは……そんなこと……」
「そんなこと?」
「だって、馳川さんを不幸にしてるのは奥さんと子供で、だからあたしは、あたしだって我慢してるんだから」
ゆり子は膝の上で拳をぎゅっと握った。
「あたしは馳川さんのことを好きなままでお墓に入るんだから」
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