特別なもの

10/15
前へ
/15ページ
次へ
いつも通りに学校では、友人がいないために誰かと特別話したりするわけでもなかった。窓際の席だったので、開いた窓から入る風に当たりながら、窓の外の景色を見るのが僕の日課だった。今は方角的にも日が当たらないし、とても快適である。 教室を見渡すと、まだ朝で授業前だからか、男子も女子もいくつかのグループに分かれて会話をしていた。特に面白い話をしているようには聞こえなかったので、僕は首はもちろん突っ込むことなどなかった。 もう一度窓へ視線を移したときのことである。 バタンッと教室の後ろのドアが開き、同じクラスメイトの男子が駆け込んでくるなり、こう言った。 「コーラって飲むと、骨、溶けるんやって!」 その男子はクラスの中でもかなり発言力がある、所謂リーダー的存在であった。 その言葉にクラスメイトたちは騒然となった。 「おまっ、そんなわけないだろー」 「ほんとやって、かあちゃんがゆうてたもん」 「コーラって、お前が好きな飲み物やん」 「そうそ、朝から飲んでたらそう言われて没収されたんよ」 僕は、彼らが話しているのをぼーっと見つめていた。 そして、次第にふつふつと腹の底から怒りが湧いてくる。 ガタッという大きな音を立てて、僕はその男子の元まで、ズカズカと歩いていく。 コーラを飲むと、骨が溶ける? そんなの、嘘だ。 彼の周りにいたクラスメイトは、僕の威圧的な態度に押されて、一歩下がって呆然とそんな僕を見つめていた。 「ねぇ、それ、本当?」 「えっ…な、何が?」 僕はイライラとして、ギロっと彼を睨む。彼の口から、声にならない悲鳴が聞こえた気がした。 「その、コーラは骨を溶かすって話だってば」 「かあちゃんがそう言って…」 「だから、それは本当なのかって聞いてんの!」 「…コーラに、そういう成分が入ってるって…言ってたんやもん…」 我慢しきれずに叫ぶ僕の視界に、涙目の彼の姿が入り、ドキリとして僕は我に返った。 それから、どうしたかは覚えていなかったが、その日から僕は、お兄さんの家へ行かなくなった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加