特別なもの

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* 僕は、友達がいない。親の転勤の都合で六月というとても微妙な時期に引っ越してきてしまい、一ヶ月が経つ。既にクラスでのグループが出来始めた中には簡単に仲間には入れてもらえなかった。 でも、それでもよかった。 都会から引っ越してきた僕にとっては、ここには未知が沢山ありすぎた。どれだけ走っても田んぼだらけの道には心底驚き、ドキドキしたものだ。まだまだ、この土地について知らないことだらけなのである。探検し尽くしても足りないくらい。 「今日はどこ行こうかなァ」 小さな背中に大きなランドセルを背負った僕は、誰もいない家に早足で帰り、リュックの中にいつもの荷物たちを入れる。 「えぇと…双眼鏡と、タオルと、時計とぉ…あ、ここら辺の地図と…」 僕はふとリビングを見回した時、机に母が作ったであろうクッキーが置いてあるのを見つけ、それを袋に包んでそっとリュックに入れる。外で食べるおやつはきっと美味しい。そう思うと、浮き足立つ気分になった。 今日も今日とて新しく開拓した道を足元に注意しながら、進んで行った。 ここには知らないものだらけであった。田んぼにいる生き物など、存在は知っていても、生まれてこのかた直接触ることなどなかった。樹木の間を縫って行くには、足元の根から安全な足場を探しながら、慎重に足を運ぶ。 まるでそんな"ゲーム"の世界だった。 「…げぇむ、なんて、したことないけど」 僕は所謂厳しい家庭に生まれたらしい。都会にいた頃も周りのクラスメイトは、"ゲーム"を持っていたが、勿論買ってもらえなかった。だから、全部想像でまかなっている。
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