特別なもの

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辺り一面が深い緑の樹木に囲まれ、僕は上を見上げた。キラキラと葉の隙間から差し込む光が眩しい。来た道を振り返ると、その先も木が続いていて、かなり遠くまで来たことがわかった。 大丈夫。僕は、ヘンゼルとグレーテルがパンで目印をつけたように、クッキーで目印をつけたりなんてしてない。きちんとした地図があるのだから。 「…しまった」 僕はここに来て、最大の失敗に気がつく。サァッと顔が青くなり、嫌な汗が頬を伝ったのが自分でもわかった。 「…方位磁石、忘れちゃった」 僕はいつも方位磁石と地図を使って、家へ戻っていた。小学校低学年がそこまでできるのはなかなかのものであると自分では思っている。時計を見ると、夕方の午後五時頃を指していた。 「…どうしよう」 夜の午後七時には家に着かないと、親が帰ってくる。外に行って遊んでいたなどバレてしまったら、お手伝いさんにきっと外に行かないように監視させるに違いない。何よりここは、街灯が少ないのだ。日が長い夏だって、あまり遅くなれば暗くなる。 僕は焦って、取り敢えず家に戻ろうと、来た道を引き返そうとした。 「あっ」 急いだのがいけなかった。僕は、足元の根っこに足を取られて、転んでしまう。 「いたぁぁ……うぅ…」 じわり、と視界がぼやけて、思わず泣きそうになった、その時。 「僕?どうしたの?」 頭から突然声が降って来て、僕はビクビクしながら、振り返った。
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