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痛みでうずくまる僕を覗き込んでいたのは、大きな大人のお兄さん。
「ありゃりゃぁ…」
僕の血で真っ赤に染まった膝小僧を見て、苦笑いをしたお兄さんは、涙目の僕の顔を見て微笑んだ。
「僕の家ね、近くなんだよ。治療してあげようか?」
知らない人にはついていかない。
そう言われて教わっていたけれども、僕はあまりの膝の痛さにこくこくと頷くと、お兄さんに手を引かれて彼の家まで行った。
お兄さんの家は不思議だった。
「…お兄さん、なあにこれ…」
「ふふふ、凄いでしょう!」
お兄さんは、僕に自慢するように両手を広げて、中へ案内をしてくれた。
そのお兄さんの家は、大きな木の根の間にひっそりと建っていた。白い柱がぼんやりと光っているようでとても神秘的に見える。庭から見える部屋の机には沢山の紙がどざっと置いてあった。
「…ここ、おうち?」
「おうちだよ、ちゃんとした、ね」
僕を椅子に座らせると、お兄さんは丁寧に傷跡を治療してくれた。消毒液の匂いが森の匂いに混じってぷわぁんと鼻孔をくすぐる。膝の奥の方がヒリヒリとして痛かったけれど、我慢をした。
「ねぇお兄さんはここで何してるの?」
机に沢山置いてある紙は、どうもただの紙ではないようだった。
「僕ね、本を書いてるんだよ」
「作家さんだ!」
「そう、よくわかったね」
僕はそのお兄さんが作家だと聞いた時、何故かとても納得がいったのだ。
それ程、この場所が、とても物語の中にいるように感じさせるような、そんな場所だったからだ。
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