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僕はそれなりに色々なことや物を知ったつもりになっていた。
だが、僕にとっての未知は、まだあった。
それは、不思議な色をしていて、本当に人の体に入れてもいいのかと疑ってしまうものだった。
*
しばらくして戻ってきたお兄さんの手には、二つのコップと一つのペットボトル。
僕は、それを見た瞬間に言葉を失った。
「…お兄さん、それなあに?」
「え、これ?コーラだよ?」
コーラ。
その言葉には僕にも聞き覚えがあった。
確か、クラスメイトが美味しいと話していた飲み物である。だが、厳しい家庭で生まれ、いつも決められた食べ物を食べて飲んできた僕にとっては、未知の飲み物であった。
「もしかして、飲めない?」
「飲む!飲むよ!」
僕はドキドキした。
森の中を散策に行く前のような気持ち。
どんな味なんだろう?どんな匂いがするんだろう?
目の前の透明なコップに、とくとくと注がれていくコーラを僕は間近で凝視していた。
コップの底の中心から出ているような泡。その泡のシュワシュワという微かになる音。ほのかな甘い匂い。
何よりも気になるのは、色だ。
黒のような茶色のような不思議な色。
僕の胸の高鳴りは最高潮であった。
だが、胸が高鳴るのは、期待と、もう一つ。得体の知れないものへの不安である。
「…これ、毒じゃない?」
「やっぱり飲んだことない?」
そうお兄さんは笑うと、僕の目の前でコーラを一杯、一気に飲み干した。
「美味しいよ」
その一言が決め手だったかのように、僕は目をぎゅっと瞑り、手にしたコーラを飲み干したのである。
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