特別なもの

7/15
前へ
/15ページ
次へ
* 僕はそれなりに色々なことや物を知ったつもりになっていた。 だが、僕にとっての未知は、まだあった。 それは、不思議な色をしていて、本当に人の体に入れてもいいのかと疑ってしまうものだった。 * しばらくして戻ってきたお兄さんの手には、二つのコップと一つのペットボトル。 僕は、それを見た瞬間に言葉を失った。 「…お兄さん、それなあに?」 「え、これ?コーラだよ?」 コーラ。 その言葉には僕にも聞き覚えがあった。 確か、クラスメイトが美味しいと話していた飲み物である。だが、厳しい家庭で生まれ、いつも決められた食べ物を食べて飲んできた僕にとっては、未知の飲み物であった。 「もしかして、飲めない?」 「飲む!飲むよ!」 僕はドキドキした。 森の中を散策に行く前のような気持ち。 どんな味なんだろう?どんな匂いがするんだろう? 目の前の透明なコップに、とくとくと注がれていくコーラを僕は間近で凝視していた。 コップの底の中心から出ているような泡。その泡のシュワシュワという微かになる音。ほのかな甘い匂い。 何よりも気になるのは、色だ。 黒のような茶色のような不思議な色。 僕の胸の高鳴りは最高潮であった。 だが、胸が高鳴るのは、期待と、もう一つ。得体の知れないものへの不安である。 「…これ、毒じゃない?」 「やっぱり飲んだことない?」 そうお兄さんは笑うと、僕の目の前でコーラを一杯、一気に飲み干した。 「美味しいよ」 その一言が決め手だったかのように、僕は目をぎゅっと瞑り、手にしたコーラを飲み干したのである。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加