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「そんなことないって。エミにも感謝してるよ」
「もー毎日世話しに来てる彼女をもっと労いなさいよ」
「はいはい。治ったらなんでも我儘聞くって」
目の前で繰り広げられるバカップルの会話に、マキは気づかれないよう強く拳を握り締める。一度唇を噛み、それから2人の会話を遮る大声を出した。
「ごめん。今日は行くね」
「え、もう?」
露骨に残念な顔をするアキラににっこりと笑いかける。
「ごめんね。この後講義入ってるんだ、受けたかった教授のだからさ。エミ、悪いけどその花飾ってくれる?」
「うん、いつも本当ありがとうね」
「またな、マキ」
手を振り、アキラの病室を出ていく。病院を出て大学までの道を速足で進み、こみあげてくる涙を必死で誤魔化した。
ずっとずっと、アキラの一番側にいたのはマキだったのに。アキラの目にはいつだってマキが映っていたのに。
『友達』でいることが、こんなに辛いなんて思わなかった。
堂々と『彼女』としてアキラの病室に入り、入り浸っているエミが羨ましくて、妬ましい。
尊敬する教授の話もぼんやりと聞き流し、トボトボとした足取りで一人暮らしのアパートまでたどり着く。電気をつけたマキの目に映るのは、部屋を占領している解きかけのパズルだ。
「……明日は、来るのかな」
届く間隔も個数もバラバラのピースは、2~3日連続で届くこともあれば1週間ほど間をあけて届くこともあった。多い時には数十個、すくないと10個にも満たない数しか来ないこともあるパズルピースを、マキはいつからか心待ちにしていた。
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