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高3ー春ー
3年になって、春真は4組、祐樹は3組になった。
春真の教室は今までの2階の真ん中から、3階の一番端になった。
いつものように教室から陸上部の練習を見ようとするけど、3―4の教室はグラウンドの端に当たり、よく見えない。
「これじゃよく見えねぇな。」
そう言いながらも立ち上がって祐樹を探す。
「いたいた。」
高跳びでうまく跳べずに悔しそうな顔をした祐樹と目が合った。
今日の祐樹は調子が悪いのだろうか?
何度も失敗しては挑戦を繰り返していた。
しばらく祐樹を見ていたけど、そのうち自分の机に座って進路希望のアンケートを見つめる。
専門学校はいろいろ調べて、行きたいところは決まっていた。
資料請求で届いたいくつかの学校のからの郵便物を見られた事で親にもバレて、多少時間はかかったけど専門学校へ進む事については了承を得られた。
後は担任が素直にこれを受け取ってくれるか……。
先輩には担任に猛反対されて専門学校を諦めたという人がいると聞いたことがあるのだ。
将来は自分のものなのに、何で自分で決めさせてくれないのだろう?
納得いかないけれど、これが現実だった。
ため息をついて立ち上がると、また祐樹を眺める。
やっぱり今日は飛べてない。
冬の間と新学期が始まってすぐの頃は筋力トレーニングがメインで、器具を出しての本格的な練習は今週になってからだったからまだ体が慣れていないのかしれない。
自分の進路への不安と、祐樹の飛べないバーが春真の中でシンクロする。
『祐樹が飛べたらきっと俺もうまくいく。』
そんな願掛けの様な思いが胸の中に湧き出した。
だけどそれは自分は一切努力していない、他力本願としか言いようのない自分勝手な考え。
そんな事しか考えられない自分を恥ずかしく思う。
それでも祐樹には跳んで欲しかった。
自分の進路がどうとか関係なく、跳んで欲しかった。
祐樹が鳥のようにヒラリと舞い上がる姿を見ることが春真にとっては楽しみで、それはやはり成功した時にしか見られないものだったから。
それぞれ別の道を歩むようになったら見られない、祐樹が跳ぶ姿を今のうちに目に焼き付けておきたかった。
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