第1章

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「豆腐って一度凍って溶けるとスカスカだよな」  と電話越しに聞こえる。 「凍み豆腐的な?」と私は答えた。 「知らんけど、スポンジみたいになる」    そう言われて夢から覚めて、ベッドの上で「は?」と声に出して言った。何の話、と思いながら起き上がる。    電話の声に聞き覚えがあった。声変わり前の男の子みたいな声だった。寝ぼけた頭が冴えていくと同時に、小学校のころ近所だったヨシキの声に似ていたなと思いついた。  今夜の同窓会が私は思ったより気にかかっているようだった。    小学校二年で引っ越してきた家のすぐ近くにヨシキの家はあった。その町内に同じ学年の生徒は私とヨシキともう一人の女の子しかおらず、よく三人で下校したものだ。それも高学年になると女の子のほうは周囲の目を気にしてか男子とつるまなくなり、私とヨシキだけは互いの家でベイブレードだのカードゲームだのをして遊んでいた。協調性に欠ける私は女子同士のアレコレに馴染めるわけもなく孤立していた。ヨシキだけが遊び相手だったが、中学が分かれてからは一度も会っていない。    酒が飲めるようになったあの頃の顔触れを特に懐かしいとも思わなかった。ひげが生えていたり、化粧が派手になっていたり、結婚指輪をはめている人もいた。私もある程度化粧はするし、仕事もしているし、結婚はしていないけど男性経験だって済ませている。ただそんな事実は大したカードではない。みんな当たり前に持っているステータスになっていた。この空間にはいまだにスクールカーストが見えた。私のことを指さして、「あれ誰だっけ?」と話し合う声が何度か聞こえた。やっぱ苦手だなーと思って、美味しくない缶チューハイを持って会場から出た。    会場を出てすぐの通路にもベンチがあって、酔ってしまった何人かがうなだれて座っていた。灰皿の横の丸椅子しか座れるところがなかった。とりあえず腰かけ、せっかくだからカバンからピアニッシモのペティルを取り出して一服する。  一時間後に幹事が手配したシャトルバスが一台来る予定だった。家庭がある人用だった。それに乗って帰ってしまおうと考え、一時間この缶チューハイとペティルでやり過ごそうとしていた。
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