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 窓の外のだれかにフォーカスして、そのひとの状況を推測したり、交わしている会話を妄想するのは、手元で本を読んだり、スマホをいじったりするよりも、ずっと面白かった。  趣味が悪いとは、自分でも思っている。それでも、ひとに知られなければいい。単に窓の外を見ている人間なら、この電車の一両のなかにだって大勢いる。その目的がある種ののぞきだったからと言って、傍からわかるものでもないのだ。  清花が乗るのは、上りの快速特急の電車だ。各駅停車しか停まらない通過駅が六つも続き、大きなターミナル駅の横浜駅に着く。そこで一度改札口を出て、別路線の下りに乗り換え、三駅目が学校の最寄り駅である石川町駅だ。  カーブでカバンが持っていかれる。どうにか手元に取り戻したものの、横浜駅まではまだ、十数分ある。息苦しさを紛らわそうと窓の外を注視していると、ふと、通過駅のひとつで気になる人影を見つけた。  目立つ女性だった。目深にかぶった白いつば広帽子は、真っ赤なリボンがアクセントになっている。帽子の下に流れる長い黒髪。まとっているのは、ミモレ丈のシンプルなノースリーブワンピースだ。紺色の布地はすとんとしている。足下は赤いハイヒールのサンダル。まるで真夏のリゾートにいる女優のような風体の女性が、向かいのホームの端にぽつねんとたたずんでいる。     
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