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「オレはもう食ってきたから帰るわ。紅葉ありがとな。…若葉、またな。」
それだけ言ってさっさと階段を下りて玄関で靴を履く。
「ちぃちゃん、また来てね?」
紅葉もオレの後をついてきて見送りしてくれた。兄弟のいないオレには紅葉は妹のような存在だ。
「当たり前だろ?」
そう言って安心させてから玄関のドアを開けた。
…本当はお前の兄貴次第かな?
閉まるドアの音を聞きながら思う。若葉の考えや態度は頑なで、オレの話なんて聞こうともしない。若葉を説得しようとすれば今日の様に拒絶の言葉を聞かされ自分が傷つくだけなのに…どうしてこんなに諦められない?
鍵を開けて家に入ると母親が電話で話している声が聞こえた。最近できた年下の恋人だろう。聞かないように急いで階段を上がり自室のベッドに倒れこむ。
宿題して風呂入って…しなきゃいけないけれど身体が鉛のように重くて動かない。
子供の頃の若葉はオレを拒絶なんてしなかった、何もかもを受け入れて傍にいてくれた。あの頃のオレの世界には一番に若葉がいたんだ。
どうしてあんなに変わったんだろうな?
そのまま目を閉じて、一晩中過去の思い出に縋った。
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