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俺が、兄妹の惜別の場に選んだのは、殺風景な事務所の一室だった。ソファーがひとつと、カーペットが敷かれているだけ。ほかには何もない。 緩く曲線を描いた栗色の髪、お人形のような可愛らしい顔立ち、華奢な身体。マオの妹だけあって、こいつもかなりの上物だ。妹は一応縛ってあるが、危害を加えるつもりはない。邪魔をされたくないだけだ。 妹は、この惜別の後、タクシーで空港まで行き、国外へ逃亡する算段になっているらしい。俺には、どうでもいいことだが。 悪魔だって、3つの願いをちゃんと叶えてから魂を奪うんだろう。俺だって、契約はきちんと守る。 「お兄ちゃん…」 マオはしゃがんで、妹のほおを両方でそっと挟み込む。まるで、少しでも力を入れると割れてしまうガラス細工でも持っているかのように、優しく、優しく。 「花蓮(かれん)、お兄ちゃんの一生のお願いだ。お兄ちゃんのことは忘れて、絶対に生きて、幸せになってくれ。おまえの幸せだけが、僕の全てだ、花蓮」 「やだ、お兄ちゃんがいなくなっちゃうの、嫌だよ…!お兄ちゃん…!」 「花蓮、さよなら。元気でね。お兄ちゃんの一生のお願い、忘れないでね」 妹の目から涙が零れおちる。 こちらから、マオの表情は見えない。が、兄妹の別れの言葉になんて興味もない。 汚れなき青色の瞳。その瞳が、絶望に歪み、黒く染まるところが見たい。 マオは立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。その瞳に、決意の色を滲ませて。
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