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ふと、佳乃は倫音の姿を目で追う。
隣のテーブルで佳乃には背を向けたまま、余った料理を淡々と一皿にまとめていたため表情は伺い知ることはできなかったが、倫音のことだ、きっと聞こえていたに違いない。
『門倉さんところほどの大きな病院が…』
「タカシさんって、あの『門倉医院』の息子さんだったんだ…」
この界隈で暮らす人間にとって、知らないはずはない最も大きな開業医院だ。
佳乃より遥かに長い付き合いの2人だ、倫音が知らないはずはないと思う。
けれど、こんな場所で偶然対面することになって、動揺はないのだろうか。
『カドクラ』という名前を聞いた瞬間、どんな仕事に関しても完全無欠に見える倫音がわずかに手元を狂わせてサーバーを取り落としたかすかな音を、佳乃は聞き逃さなかった。
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