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「2人とも、ほんっと~に今日はありがとう! 助かったわ」
最早、常套句となった台詞を操は倫音と佳乃に向けて放った。
「私と絵美里は事務所に戻るけど、他の子たちと同様に直帰で大丈夫よ」
「お疲れ様です」
タクシーに乗り込む操と絵美里を、佳乃は倫音と並んで見送った。
優越感に浸るような、勝ち誇ったような表情を絵美里は佳乃に向けていたが、当の本人はタカシの父について一刻も早く倫音に確かめたいという思いに捕らわれていたため、何とも感じていなかった。
「ねぇ、天崎さん。さっき、タカシ…」
「人見さん」
「な、何?」
「託児所へのお迎えは、何時ですか?」
「延長になった時を考えて、10時以降にしてもらってるけど…」
腕時計を確認すると、午後9時を回ったばかりだった。
「じゃあ、時間はありますね。一緒に来てください」
「え、ど…どこに?」
パーティー会場のホテルを早足で出ていく倫音は、慌てて後を追う佳乃を振り返りながら告げた。
「『マンダリン』です」
「え、あの、ボーイズバー?」
今日は操もいないのに、何故…。
「私たちは、タクシーを使いませんからね!」
「待って、天崎さん。経産婦にはキツいスピードだわ…」
ストイックな競歩選手のように、倫音と佳乃は腕を降って、ひたすらネオン街を歩いた。
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