3.倫音、仕掛ける。

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「お待たせいたしました~」 「さほど、待っていません」 「さほと、お待たせしませんでした~」 グラスビールを差し出す際も、店員と客がじゃれ合うように、再び2人は軽口を叩き合う。 その時、片手に収まる何かをカウンターテーブルの下でアキラから倫音へと素早く手渡されたのを、佳乃は見逃さなかった。 「天崎さん、それ…」 「人見さんも、どうぞ」 こっそりと託された『それ』は、ワイヤレスのイヤホンだった。 そのタイミングで、再びボーイズバー『マンダリン』のドアが開く。 振り返った佳乃は、目を疑った。 事務所へ戻ったはずの操と絵美里が、腕を組んで入ってきたのだ。 「あら、天崎さんに…佳乃ちゃんも。この店を気に入ってくれたの?」 やや動揺した面持ちで、しかし作り笑いを浮かべながら操は声を掛けてきたが、絵美里は完全に敵視の目を佳乃に対して向けていた。 「役者が揃いましたね…」 片耳に髪をかけながら、さりげなく倫音はイヤホンを装着する。 そして珍しく、不適な笑みを浮かべた。
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