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閑話休題。
この数奇な物語は、鷹司夫妻が旅先で震災に巻き込まれ、その避難所で幼い姉弟に出会ったことに端を発する。
地震が起きる数日前に肉親に捨てられた、その不幸な姉弟は共に名前がなかった。子供に恵まれないことが分かっていた鷹司夫妻は、特別養子縁組制度を用いて、その姉弟と正式な『親子』になった。、
姉は瑞希と名付けられ、
弟は和樹と名付けられた。
地震が起きる数日前から、瑞希と彼女の弟は二人だけで家に住んでいたらしい。いや、放置されていたと表現した方が正しいかもしれない。
当時三歳前後だった瑞希は、生まれたばかりの弟の世話に腐心していた。
見よう見まねでご飯を食べさせたり、
見よう見まねでおむつを交換したり、
忽然と姿を消した親の代わりを、必死に務めようとしていた。
いつか帰ってきてくれることを、健気に願いながらーー。
菓子パンの袋や、中身のないペットボトルが散らかる部屋。部屋の隅には使用済みのおむつが積まれ、異臭を放っている。
その閉ざされた空間にどれ程の地獄が広がっていたかは、想像を絶するに余りある。
追い打ちをかけるように、次第に家の中から食べ物がなくなっていく。しかし、まだ幼い瑞希には、食べ物を買いに行くことはできない。近隣住民に助けを求めることもできなかった。
耐えがたき空腹と絶望に蝕まれ、二人の命の灯が吹き消されようとしたその時ーー。
家が大きく震え、やがて濁った水が部屋に押し寄せてきた。
水は瞬く間に水位を上げていき、遂には二人を閉じこめていた家を壊す。
幼い姉弟は、為す術もなく濁流に呑まれ、そしてーー。
世紀の大津波は多くの人命を根こそぎ奪い、辛くも死を免れた人々にも甚大な被害と絶望をもたらしたが、二人にとって未曾有の厄災はまぎれもなく天佑神助ーーまさに奇跡だった。
しかし、運命は奔放だ。
二人は、運命に翻弄される。
汚泥と瓦礫に埋没した街で、瑞希は目を覚ました。
遠くから、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
誘われるように、瑞希はその声の方へ歩み寄る。
ああ、こんなところにいたんだ。
よかった。
おねえちゃんらしく、ちゃんとおとうとをまもれたんだーー。
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