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しかし、その赤ん坊は本当に彼女の弟だったのだろうか。
命の危機に瀕するほどの非常事態下において、三歳の女の子が生後間もない弟と、生後間もない赤の他人を見誤ったとしても不自然ではないだろう。
あるいは、弟であって欲しいという願望が強すぎたがゆえに、盲目的に弟だと思いこんでしまったのか。
ともかく、当時の瑞希が弟と他人を間違えた理由は、今となっては分からない。
けれど、弟を守り抜くことに命を賭した幼い姉を、誰が責めることをできようか。後に和樹と名付けられる赤ん坊の親が、名乗り出なかったことを原因にするのも筋違いだ。
責められるべきは、三歳の女の子の主張を鵜呑みにして、この二人を姉弟だと疑わなかった日本政府にある。もっとも、二人が本当に姉弟なのか鑑定することよりも、もっと大事な問題が山積していたという事情も理解できるが。
そして、二十年以上の月日が流れ、共に地獄を生き抜いた姉弟は、見合いの席で運命の再会を果たした。
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