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鷹司瑞希と名付けられ、京都の裕福な家庭で育てられた姉は、モデルとして活躍していた。
桜井響と名付けられ、神奈川県の養護施設で育てられた弟は、小説家として活躍していた。
顔を合わせるやいなや、二人は瞬く間に意気投合した。
何でもないようなやりとりが、何物にも代えがたい大切な時間に思えた。
何にも知らないはずなのに、何でも知っているような安心を覚えた。
それこそ、今まで出逢わなかったことを、純粋に疑問に思った。
桜井響が鷹司瑞希に運命を感じていたように、
鷹司瑞希も桜井響に運命を感じていた。
二人は互いを運命の人と錯覚し、禁忌の恋に堕ちた。
無知は罪なりーーとは、ソクラテスの至言ではあるが、二人の無知を罪であると断罪することを誰ができようか。
二人で過ごす幸せな時間は、光のような速度で過ぎていく。
二人は常に寄り添い、生き急ぐように愛を育んでいく。
姉弟として過ごせなかった二十数年余の情愛を、
恋人として過ごした僅か数ヶ月足らずの愛情に凝縮、転化しているだけとも知らずに。
何ら特筆することのない、二人の穏やかな日々。
一緒に遊んで。
一緒に食べて。
一緒に歩いて。
一緒に眠って。
一生、一緒に生きていきたいと願う。
そして、無知な二人は、たくさんの人々に祝福されながら永遠の愛を誓った。姉と弟であるはずの二人は、恋人という関係を経て、晴れて夫婦になった。
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