#1 駄作の推敲(堕落の邂逅)

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「何度も言ってるだろ? 世のオタクどもの股間をビンビンに刺激するヒロインをふんだんに用いた、馬鹿でも理解できる薄っぺらいストーリーを書けって言ってるんだ。  衰退した世界の住人である主人公と、隆盛を極めた世界の住人であるヒロインが、人種差別や政治問題、エネルギー供給問題など、現代世相を風刺したかのような問題を乗り越えて最終的に結ばれるーー無駄に世界観に凝った異世界モノの長編ファンタジーなんて、読者層が限られる。少なくとも、活字に抵抗のある輩は手に取らねぇ。  そうじゃねぇ。  俺が桜井せんせーに書いて欲しいモノは、そんな高尚で堅物なストーリーなんかじゃ断じてねぇ。じゃぶじゃぶ課金したくなるような射幸心を煽るスマホゲームしか、娯楽を知らない無教養の中高生男子が、じゃぶじゃぶフィギュアやキャラクターCDを買いたくなるようなヒロインを前面に押し出した、おっぱいとぱんつと萌えが跳梁跋扈する低俗なストーリーだ。  アニメ化、ゲーム化、映画化ーー原作者にもたらす、印税という名の旨みは青天井。桜井せんせーには、その旨みを享受できる規格外の才覚があるはずだ。  忘れたとは言わせねーぞ。  桜井せんせーの衝撃のデビュー作、『僕の義理の妹がメイドで、その御奉仕がすごすぎるがゆえに、兄から御主人様にジョブチェンジした僕の末路について何か質問ある?』。  月並みな言葉になるが、あれは凄まじかった。発売されるやいなや、瞬く間に重版に次ぐ重版。続く二巻と三巻も絶好調。  あれよあれよとトントン拍子で、ありとあらゆるメディアミックス化が決定。そして、そのどれもが大成功。秋葉原どころか、日本のサブカルチャーの頂点に君臨したと言っても過言ではなかろう。  しかし、原作者の意向を尊重して、惜しまれつつも『妹末(いもまつ)』は九巻で完結。空前絶後の超人気作を僅か九巻で完結させてしまった正誤については、編集部と読者のどちらにおいても、丁々発止の賛否両論が飛び交っていたが、今ははっきりとそれが誤りだったと言える。  
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