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「し、死んでる、のか?」
瑞希は答えない。
ピクリとも動かない。
ただ虚ろな眼を、僕に向けるだけ。
そのはずなのに。
「死んでるよっ!」
と、アッサリと返答があった。
無邪気な少女の声に聞こえた。
「待ってたよっ!」
いつの間にかーー、血染めの浴室に、見知らぬ少女がいた。
腰まで届きそうな黒く艶やかな髪を、左右の耳のあたりで二つにまとめ、丸っぽい輪郭に幼さを主張する垂れ目ーーたとえて言うなら妹系アイドルのような、諸兄たちの庇護欲を煽る容姿をしている。ボブカットで目鼻立ちがくっきりしている正統派美人の瑞希とは、ある意味では対極だ。
そして、謎の少女はメイド服を着ていた。
メイド喫茶が採用していそうな、胸元が大きく開いた、露出の高い半袖ミニスカタイプ。頭にはメイド服には必須とも言える、白いメイドカチューシャ。ここが浴室ということに配慮しているのか定かではないが、ミニスカメイド服には欠かせないニーソックスは履いておらず、裸足だった。
「ーーこれは、お前の仕業なのか? お前が瑞希を殺したのか?」
「そうだと認めたら、あなたはどうするの?」
少女は、不敵に笑う。
「警察を呼ぶ。そして、お前を殺人犯として突き出す」
「警察はオススメしないね」
やれやれといった感で、少女は大仰に首をすくめてみせた。
「警察を呼んでも、この物語はハッピーエンドには辿り着けないことが明らかになったからね。何度も同じバッドエンドを繰り返したって、無意味でしょ?」
「さっきから何を言ってーー」
世迷い言を吐き続ける少女に、堪忍袋の緒が切れてしまったことを自覚する。いつのまにか、ごくごく自然に握っていたナイフを、脅し目的で少女の細い首筋に突き立てーー。
「ーーえ?」
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