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「ん?」
浴槽や壁の至るところには、無数の水滴が付着していた。つまり、誰かが浴室を利用した痕跡がある。
誰か。
それは、僕の妻である瑞希しかありえない。
しかし、脱衣籠には、衣服やタオルの類は一切入っていない。入浴直後に洗濯をしたという可能性もあるが、瑞希はいつも午前中に洗濯機を回していたはずだ。
「寝てる間に、瑞希が風呂掃除でもしたのかな」
そうとしか思えない。
少なくとも僕の知る瑞希は、下着を含めた同じ衣服を入浴後に再び着るような女性ではない。身体を拭いたタオルが見当たらないことも、風呂掃除をしたというなら納得できる。
奇妙とは呼べない程度のズレを感じながらも、僕は浴槽に湯を張り始めた。
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