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#4 時の縫合(克己と抱擁)
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ピピピピピピピーー。
耳障りな電子音に目を覚ますと、視界は真っ暗だった。
あれ、自分はどこで仰向けになっているのだろうと、半覚醒状態の脳味噌で呑気に思案してみるが、明確な答えが出てこなかった。
それにしてもうるさい。急かされるようにして、まだ重たい身体を起こしてみる。
病室のベッドの上だった。サイドテーブルに置かれたスマホのアラームを止める。スマホの液晶画面に表示された日時は、四月十三日金曜日の午前零時一分を示していた。
つまり真夜中。周囲が真っ暗で当たり前だ。
サイドテーブルに設置されたスタンド式の灯りを点ける。仄明るいオレンジ色が、じんわりと広がる。
はて、なんでこんな時間にアラームが鳴るのだろう。
誤作動だろうか。
それとも、何か意図があるからアラームが鳴ったのだろうか。
可能性としては後者の方がありそうだが、入院中の自分がこんな真夜中に起きなければならない事情について、何一つ心当たりがなかった。
スマホを操作してみる。着信、あるいはメッセージの類いを受信したわけではない。間違いなく、午前零時一分に設定されたアラームが鳴ったのだ。
そもそも、どうして自分はここにいるのだろうか。
ああ、そうだ。
確か、電車に轢かれてーー。
いや、違う。
電車に轢かれたら、即死は免れない。
ああ、そうだった。
電車ではなくて、大型トラックに轢かれたんだった。
確か、信号を無視してきた大型トラックにーー。
やっぱり違うような気がする。
自分の身体を確認してみる。
身体のどこにも包帯は巻かれていない。大仰な生命維持装置に繋がれているわけでもない。手足はきちんと動く。意識や視界もしっかりしている。
電車に轢かれるより大型トラックに轢かれた方がまだ生存率が高そうだが、一つも外傷がないというのは無理があるだろう。
明らかに混乱している。どこかで、頭を打ったのかもしれない。
たとえば、神保町駅の階段とか。
ーーなんで、そんな具体的な地名が脳裏をよぎったのだろう。神保町駅と言えば、担当編集の小林が勤務している大東出版があるけれど。
きっと自分は疲れているんだ。
そこまで考えてようやく僕は、自分が入院している本当の理由を思い出すことができた。
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