#2 愚作の再考(愚策の最期)

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#2 愚作の再考(愚策の最期)

1  目を覚ますと、懐かしさを覚える天井が視界に入ってきた。  あれーー自分はどこで仰向けになっているのだろうと、半覚醒状態の脳味噌で呑気に思案していると、今度はその天井がひどく見慣れたもののように思えてきた。  どちらの感想が正解なのか。  はたまた、どちらの感想も不正解なのか。    身体を起こして、答え合わせをしてみる。  まぎれもなく、そこは自分の寝室だった。身体の下には、僕が愛用している敷き布団、そして身体の上には僕が愛用している掛け布団があった。  先程の疑問の答えは、『見慣れた』が正解ということらしいが、ほぼ同時に今日ーーつまり、四月十三日の午前中まで入院していたことを思い出した。ーーということは、『懐かしい』という感情も、正解と見なしていいだろう。  まだ頭が何となく重たいが、目が覚めたのだから起きることにする。  布団を畳んで、部屋の隅に押しやる。僕の寝室は洋間ではあるものの、ベッドは置いていない。ベッドで部屋を狭くしたくない(少しでも本棚のスペースを確保したい)し、いつでも横になれる環境は、睡魔と締切という不倶戴天の敵を二つも抱える小説家という職業には不適切だからだ。  軽い運動(といっても、布団を畳んで部屋の隅に移動させただけだが)をしたからか、頭が少しスッキリしてきた。  この際だから、もっとスッキリさせよう。運動不足に悩む身体を、日課にしている腕立て伏せとスクワットで軽くいじめてみる。  黙々と身体を動かすこと十数分ーーノルマの二倍近い量の運動をこなしてしまった。なぜか今日は、身体を動かすことが格別に快い。  車に轢かれて、身体の自由を失ったわけでもないのに。 「ーーーー?」  なぜ、『車に轢かれたわけでもないのに』なんていう具体的な不幸が、当然のように脳裏をよぎったのだろう? 交通事故に遭った経験なんてないはずなのに。  まあ、いいか。  いくら考えても分からないことに頭を悩ませるほど、馬鹿らしいこともあるまい。
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