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#3 癒えない葛藤(言えない解答)
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目を覚ますと、懐かしさを覚える天井が視界に入ってきた。あれ、自分はどこで仰向けになっているのだろうと半覚醒状態の脳味噌で呑気に思案していると、今度はその天井がひどく見慣れたもののように思えてきた。
どちらの感想が正解なのか。
はたまた、どちらの感想も不正解なのか。
身体を起こして答え合わせをしてみる。
まぎれもなくそこは、自分の寝室だった。身体の下には僕が愛用している敷き布団、そして身体の上には僕が愛用している掛け布団があった。先程の疑問の答えは『見慣れたもの』が正解ということらしいが、ほぼ同時に今日ーーつまり、四月十三日の午前中まで入院していたことを思い出した。
ということは、『懐かしい』という感情も正解とみなしていいだろう。
自分の状態を把握するにつれて、後頭部に鈍い頭痛を覚えた。眠りすぎたとか、タチの悪い風邪をひいたときのような、重さと気だるさを伴う種類の頭痛ではない。
頭を殴られたーーあるいは、頭をどこかにぶつけたときのような、ある意味では単純明快な痛み。
痛みの理由は分からないが、目が覚めたのだから起きることにする。布団を畳んで部屋の隅に押しやる。
それにしても、頭が痛い。運動不足解消の名目で、起床後のルーチンワークにしている筋トレは、大事を取って見送ることにする。
充電状態になっていたスマホを手に取る。
四月十三日金曜日ーー午後一時三十四分。
病院で嫌というほど寝ていたのに、家に帰ってくるなり真っ先に眠ってしまうとはーー。病院のベッドでいくら寝たところで、眠気や疲れは取れないということなのかもしれないが、これは明らかに寝過ぎだ。やはりこの頭痛の原因は、過眠によるものなのかもしれない。
何となく、熱めの風呂に入って頭をスッキリさせたいと思った。入浴が頭痛を緩和させるかは甚だ疑問ではあるが、今の状態では創作意欲が湧いてこないことは明白だった。
そうと決まれば、浴槽に湯を張ろう。
新しい着替えを脱衣所に用意すると、僕は浴室のドアを開けた。
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