愛のお返し

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 それを知るきっかけは学校からの帰り道の途中に兄が公衆電話で誰かと電話しているのを見かけたことだった。  僕の前では達観した大人として振る舞う兄だが、人前では気の弱そうな人間を装っている。そう兄は思っているだろうけれど、実際は後者こそが兄の本質には近く、僕の前や自分の心の中で強がってみせることで自分を奮い立たせているのだ。  自分の本当の姿をもっとも心を許す僕の前や自分の心の中で見せず、他者の前で本当曝け出す。それこそが僕への信仰染みた愛を抱く兄特有の歪さだった。  電話に向かう兄はそんないつもの外行きの態度に輪をかけて、憔悴しきっているような表情を浮かべていた。  気にしない方が無理な話だった。  公衆電話はボックス式ではなかったから、息を潜めて、足音を立てないようにゆっくり兄に近づいた。  聞こえてきたのは両親が金を強請とっている女性の名前だった。  近頃両親は強請では飽き足らず、その女性が身を滅ぼすのを見たいなどと思い始めているようだった。  長年兄を虐げていることで、自分の身の丈に合わない全能感を抱いている節があった両親のことだ、思い上がっているのだろうな位にしか思っていなかった。     
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