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腕の中で泣きじゃくる兄のさらさらとした黒髪を手で梳る。
自分が犯人である彼女に電話をしたせいで、あの事件が起こったのだと思い詰めていたのだろう。
もしも兄の電話が犯行の契機になったのなら、事情聴取で彼女がそのことに一言も言及していないのは不自然だと気付く筈だけど……そういうところも可愛い、お兄ちゃんの美徳だ。
とりあえず自分を責めることを止めたようで一安心。最悪、『実は僕が裏で糸を引いてました~!』なんて白状するべきかと僕は僕で悩んでいたのだ。もしそうしても兄は僕を嫌いになったりしない確信がある。けれど、やっぱり恐ろしかった。両親を殺してくれと言ったときだって恐怖は感じなかったのに、こと兄のことに対しては僕は何処までも臆病になる。
僕に対して何処までも臆病なお兄ちゃんとお揃いだね。
「りく………」
「なあに、お兄ちゃん」
僕の胸に顔を埋めた兄が、か細い声で僕を呼んだ。
儚く美しい面立ちに細い体をした兄を僕は何時だって庇護の対象だと思っていたけれど、兄のプライドを鑑みてこうして子どものように扱ったことはなかった。
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