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愛のお返し
僕、南野李九は兄である南野三月を愛している。
この愛は家族愛の他に性愛まで内包している。
幸運なことに兄は僕を世界で一番愛してくれている。
つまりは両想いということだ。
兄の僕に向ける愛が純然たる家族愛であることはこの際どうでも良い。僕に滅法弱い兄を丸め込むなんて容易なことだからね。
昔から南野家はその一員である僕の目から見ても異常な家族だった。
兄を虐待し、弟である僕を溺愛する。そんなふざけたシステムで成り立っていたからだ。
理由は誰に言われずとも何となく気付いていた。
兄が父の子どもではないからだ。
恐らく、母が浮気をしたのだろうと推測出来る。
父はそれを本能的悟り、母は父の子でないと殆ど確信していた。憐れにも兄は気付いていない。
だからこそ二人で兄を虐待し、二人揃って実の子である僕を溺愛していたのだ。そうすることで二人は夫婦という関係を確かめ合っていたのだろう。
俺は幼い頃からそんな二人を軽蔑し、厭悪してきた。けれどそれを見せることは決してしなかった。
全ては兄のためだった。
僕が二人を拒絶し、兄を庇えば両親は兄へ怒りを向けるだろう。そうなればまだ子どもでしかない僕だけでは兄を守れない。
それに他ならぬ兄が、僕と両親の仲が円満であることを望んでいた。兄は自分だけでなく僕にまで両親の加虐の牙が向けられることを何よりも恐れていたのだ。
だからこそ兄は両親からの虐待を甘受していた。
親元から離れることの叶わない幼少期だけでなく、高校を卒業し、就職した後も兄は常に両親の言いなりのまま実家暮らしを続けていた。
大きくなって暴力が減った代わりに給料の殆どを巻き上げられ、家事を押し付けられても、兄は僕の為に自らを犠牲にしてきた。まるで人身御供だ。
僕が兄を庇えば両親の兄への攻撃はより鋭さを増すし、妄信的な兄は僕を守るという意思に、自分から雁字搦めにされていく。
八方ふさがりの閉塞した状況の中で、それは正しく蜘蛛の糸だった。
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