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呪歌
幌の無い二頭立ての荷馬車が、街道をゆっくりと進んでいた。
御者台で手綱を握るのは初老の男。名前をマーカスと言った。麗らかな日差しの下、日よけの麦藁帽子を被って、コーンパイプを燻らせている。
街での商売を終えた彼は、彼の家がある一つ向こうの村に戻る途中だった。
もちろん今日中にはたどり着けない。
その手前にも村があり、今夜はそこで一泊するのだ。
ついでにそこでも商売をする予定だった。荷台にはその為に街で仕入れた物が積まれていた。
「すみません」
マーカスは声を掛けられ、馬車を止めた。
声のした方を見れば、街道脇の草原に一人の若い男が立っている。
頭に巻き付けた日よけの布や、使い込まれたマントなどの出で立ちから察するに、各地を放浪する旅人のようにも見えた。
だが、その割に彼は小奇麗な顔をしていた。普通は日焼けで真っ黒になるか、あるいは髪もぼさぼさになるものだ。だが彼は色白だし、日よけの布の縁からは綺麗な金髪も見えている。
「この先に村があると聞いたんですが、どれぐらいかかりますか?」
「そうだなぁ、歩いて行くなら、三時間ぐらいじゃないか」
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